管理人日記。
8/6 / GRAPEVINE
まわりだす空の下 何もかもが変わらない
流れる時間はどの位?
* * *
歩く限りは立ち止まりも出来るし、走ることも出来る
転倒も大怪我だってするだろうさ 歩く限りは色々ある
色々あるのを拒む月曜日
色々あるのを望む金曜日
何もなければ良い、と一月一日。
ループ、そしてループ、さらにループ。そういう不安定な安定の上に人はある
人生は死ぬまでの長い長い暇潰しなんだってさ。
「君の将来の夢はなに?」
は、
「君は死ぬまで何で暇を潰すの?」
という意味だったんだろうか。
今思えば、
大人は幼稚園児になんという難題を投げていたことか。
自らも気付かないほどの難題を。
「うるとらまん」と答えた子供を、俺は他の人と同じく笑えるだろうか
大いなる暇つぶしを正義と自己犠牲にあてるなんて、まるで天使じゃないか
(ちなみに当時の俺(幼稚園児)の夢は、ピアニストでした)←はかりかねる(笑
てなわけで…その暇を俺は何に当てるかを、つい最近、決めた
俺は死ぬまでずっと、忙しいのかな それは幸せなのかな
俺の幸せは、達成したらどうなるんだろう
あとに孤独だけ、残っちゃったりして
それは、自分の声にだけ耳を傾けた報いなんだろうか
税金を納めずに老後にひもじい思いをするのと、
交流をせずに老後に孤独を味わうのは、
どちらが生きていて辛いか、そんなの明白なはずなのに
* * *
二人の友人へ。
時には封印すべし想いがあるのかもしれない
それは辛いことなのだと、少しは判っている。
逃げるなと言えば追い詰められるだろう、でも
背中を押すことが俺にはどうしても出来ない
逃げるなとは言わない。だから俺は頼れと言う。
Aへ。
過去を振り返るのは、現実での問題が重く感じているからではないかい
過去が輝いて見えてしまうのは仕方がない そこには確実に良い思いでがあるからね
現実で何があったか、今度教えて
いくら俺でも少しは力になれるんじゃない?
Bへ。
その選択が本当に人生に華を咲かせることなのか、
今は冷静に考えられないかもしれないが、俺には茨の道に見えて仕方がないよ
一度その道に入れば、何度も入ってしまう気がするんだ。
あなたの場合は、過去を振り返って欲しい
その月日は、価値の無いものでは決してないはずだ。
あなたの幸せを祈っていないわけじゃない
でも、もう一度考えて欲しい。結論を早める必要もないよ
あなたは気付いているはずだ、原因も、解決方法も、それから目を背けていることも。
人生に介入するなと言われるかもしれないが
安易に選択しないで欲しい お願いだ
ハクナ日記。
目が覚めると、巨大な窓からハクナの目に白い光が入ってくる。ここ数日ずっとだ。
「う・・・。目が・・・。目が・・・痛い・・・。」
呟くと、さっとカーテンが閉じられる。部屋はやや薄暗いほどに光がさえぎられる。
これも、ここ数日ずっとなのだ。
身構えていたかのように、すぐに侍女がハクナの洋服と顔を洗うための水を持ってくる。それを見てハクナがため息を飲む。侍女は起きだした青髪の人間の、身支度を手伝おうとするが、ハクナは即座に断って、退室するよう頼むのだ。
部屋に居た使用人、十数人がぞろぞろと退室し、最後の一人がお辞儀をしながら、ようやくドアが閉められる。
どれもこれも、ここ数日ずっと同じである。
「・・・ふう・・・。」
そこで飲み込んだため息を結局吐き出してしまう。ベッドにどさりと倒れこむ。その音を聞いてユフーラが部屋の一角に作られた彼の自室から飛んでくる。
互いに挨拶を交わし、ユフーラはハクナのベッドに着地する。
ここまで何もかもが毎日同じなのだ。
「なんでこう毎日毎日…。公爵ってこんなの毎日やってるのか。息が詰まる。」
「自分で選んだ道だろう。こんな生活早くなんとか脱出しないとな」
ハクナは、ベッドに投げ出された洋服を横目で見やった。
「こんなキラキラした服、恥ずかしくて着られないって何度言ったら判ってくれるんだろう」
「マァハクナサマ!
ケサ ハ カリヲスル ゴヨテイ デシタデショウカ、ワタクシ キイテオリマセンヨ」
ユフーラが侍女のモノマネをしたのを聞いて、ハクナはまるで実際に怒られているかのような顔になった。やめろよ、と小声で言いながら起き上がり、渡された服よりも若干地味な作りの、狩用の洋服に着替えた。
「俺に金の刺繍なんか要らないんだよ、まったく。」
ぶつぶつ言いながらハクナは身支度を済ませて部屋から出て行く。
「まぁハクナ様!今朝は狩りをするご予定でしたでしょうか、わたくし聞いておりませんよ」
侍女長が驚いた顔でハクナの服装を見て騒ぎ立てた。
「おはようマリーさん。狩りなんかしませんよ。食料は足りているんでしょう?」
「ハクナ様…」
言いたいことが山ほどあるのだろうが、ハクナは渾身の笑みで黙らせた。
「俺は公爵という爵位は甘んじていただきましたが、こんな贅沢をするつもりはないんですよ。今度服の仕立てをもしするようでしたら、俺の服は限りなく地味にお願いしますね。」
そう言うと国王に挨拶すべく広間に続く階段を下りる。その姿を侍女達が不思議そうに見つめ、やがて日課とも言える噂話を始めるのである。侍女長のマリーはそれを制することから仕事が本格的に始まるといっても過言ではない。
広間では朝食を既に済ませたジウォン王と、ハクナの双子の弟・アクター、更に綺麗なドレスを着た少女が居た。
「おはようございます、ジウォン。」
「おはようハクナ。その格好で来たという事は今朝もマリーに怒られたか。」
「えぇ。それはもう。昨日と一語一句たがわず同じ言葉でね…。」
毎日同じ事だというのに、ジウォンは毎日それを笑ってくれた。それだけがハクナの救いでもあった。
朝食を食べ始めるハクナに付き合って、元居た三人はゆったりとその周りに座った。結局この少女はどこの誰なのだろうと思いつつも、ハクナは食事に集中した。
が、その集中もジウォン王の言葉であえなく途切れた。
「さてハクナ、敵国が君の存在を知って、大騒ぎになっているよ。」
「ぶっ。…っっ。水…水を…!!」
喉に何かを詰まらせて咳き込むハクナに少女が水を差し出した。
「あ、ありがとうございます…ところで貴女は一体。」
あ、と言葉をもらした後、ジウォン王が口を挟む。
「失礼。もう会っているものと思って紹介しなかったんだが…こちらは私の妻のコトミだ。」
「お噂はかねがね。よろしく、ハクナ様。」
「はじめまして。ご挨拶が遅れましたこと申し訳ありません。」
(お噂はかねがね…この言葉は本当によく言われる
ネバーランドに居た頃にもよくあった…何もしないのが特徴のような人間なのに。)
しみじみと思いながらハクナは王妃コトミに深々と礼をした。
自室に戻り、窓の外を見ながら、言葉を反芻する。
「敵国は大騒ぎで、戦争の準備、か…。実感わかないな…」
窓の外は、整備がなされた美しい町並みが、朝日を浴びて輝いていた。
「こんな奴の何が重要なのかね…」
ユフーラがやれやれという顔で呟いた。
「ほんとだね。」
ハクナもさすがに否定する気にならなかった。
ハクナは戦争準備が終わるまでは国、更に言えば王城からも出ることを禁じられている。
実際敵国もこちらの国も、ワーノックの息子の話で盛り上がっていた。
城の中でさえもそうなのだ。廊下を歩けばそこに居た使用人が一瞬動きを止めてしまう。
「いじめだ・・・」
当の本人はこんなことしか考えていない事も知らずに。