管理人日記。
ヴィンテージ / ポルノグラフィティ
* * *
体がだるい…なんだろう。 (※80%の確率で風邪が原因)
しかし俺は前日遅くまで(朝まで?)部屋の片付けに明け暮れ、
今日は本を売り払ってきました。本というか、漫画。
手元に残った漫画はワンピースとドラゴンボールと結界師と
西森漫画(「今日から俺は」含め、それ以降全部の漫画)
漫画が無くなって、やっと自室に画材のコーナーが出来ました。
あ、今日は机も見てきましたよ。
幅は140~150cmで、奥行きは60~65cmのものを買うことにしました。
PC置いて、絵を描くスペースであります。
それ以上大きいと俺の部屋が (ちんつう
よし。今夜はこれから絵の資料集めだ。
ハクナ日記。
墓標の前には花が手向けられた。
「変わった花だな…その花の名前は?」
「さぁ…ミズバショウとか言ったかな…。」
「たまに意味不明な事を言うよな。ハンジは。」
ハンジと呼ばれた男は花を手向けると一歩下がって墓標を眺めた。
「シマ、お前花は。」
「ハンジが持ってくると思ったから、葡萄ジュースを持ってきた。」
「あいつ、酒が飲めなかったからな。」
風がやや強い夕刻。
真新しい墓標の隣に、彼らの仲間が眠る、こんもりとした土の山があった。
「また死にそびれた、な。」
「ああ。」
シマとハンジの後ろに、二人の馬を繋いでいた使用人が戻ってきた。赤紫の髪に、眼帯をして俯いている。髪が長く年齢も判別できないが、杖をついて弱弱しい印象を与える。
「…で、ユフーラは。」
シマが言うと、ハンジが顎でハクナの墓標の後ろを示した。
銀髪の少年は墓標の裏で蹲ってぴくりとも動かない。足元には国王からハクナに授けられた勲章が、夕陽を受けて黄色く光っていた。
「ユフーラ。そこに居たら風邪引くぞ。」
「放っとけよ。そうしたいならさせておけ。」
「…。」
使用人が黙ってユフーラにハンカチを渡すも、ユフーラは受け取ろうとしない。
「やめておけ。」
言われて、使用人は静かに定位置へ戻った。シマがその様子を見ながら呟いた。
「そういえば、その人誰なの。ハンジって使用人なんて雇ってたっけ。しかもあれじゃ使い物にならんだろ。」
「ああ。ここらへんの道に詳しいんで雇ったんだが、あの戦に巻き込まれたらしい。道は判るってんだからいいだろ。」
物陰から、キースが見守っていたが、自らの馬を黙って城へ向かわせた。キースは相変わらず諜報活動任務についていたようだが、何かを確認して戻っていった。
それを視界の端に見て、シマは小さなため息をついた。
「さ、ユフーラ。そろそろ出発だ。リヒトって子に会いに行くんだろう。」
「…。」
「あーもう。船が出ちまうぞ。」
馬が苛立ちを吐き出すように小さく鳴いた。風が時を掬うように徐々に時間は流れていった。
「ハクナもハルシオンもここで眠ってる……俺はここから動きたくない。」
「諦めろ。死んだ奴は戻らない。」
ハンジが冷たく言い放つも、シマが後ろから突き飛ばす。
「そんな言い方ないだろ。」
墓標に刻まれた名前は『グレン=ワーノック』の名だった。ユフーラは顔を上げずに言った。
「あいつの名前が書いてない。こんな名前あいつの名前じゃない。この勲章もそうだ。あいつがハクナだったって覚えてる奴、どれだけ居るんだよ!」
呆気に取られたハンジは、墓標を見つめながら言った。
「多分、俺達とアクターだけだな。」
「…。」
ユフーラはそのまま、また蹲ってしまった。
ハンジとシマと使用人は、ユフーラを気遣って少し離れた場所で待つことにした。
美しい夕焼けは、戦が終わった実感を徐々に味わわせてくれた。
夕焼けに浮かぶ雲は、赤々と輝いていた。
「そういや、こんな日だったな。俺達がハクナを拾ったのは。」
「そだな。お前やみんなに大反対されながら拾ったんだ。」
「名前を付けたのはシマだったよな。なんでハクナだったんだ?」
「そういや、ハクナにいつか教えてやる約束だったんだが、結局言えなかったな。」
「どこの言葉だか知らないが、ハンジが教えてくれただろう『白』と『無』という字を。」
「ああ。盗賊団の暗号に使った字か。」
「あれからハクナって名前は思いついた。当時俺はエリナと結婚して少し経ったところで…もうすぐ子供が生まれるってところだった。」
「ああ、そんな時代だったけか。」
「それで俺…男ならキース、女ならハクナって付けようと思ってたんだ。」
・・・・・・
「「…ちょっと待て。」」
ハンジはともかく、使用人までツッコミを入れてきた。シマの口元が、微かに微笑んだ。
「…ユフーラ。」
声に反応して顔を上げたユフーラの前に、青い髪の青年が立っていた。気遣わしげに微笑む顔に、ユフーラは更に悲しそうな顔をした。
「もう泣くなよ、オスだろう。」
「…。」
「俺で良ければ、今後一緒に暮らしていっても」
「…余計悲しくなるからいい。」
「そっか。」
アクターは、さりげない仕草ほどハクナに似ていた。ユフーラはなるべく見まいとしたが、それでもどうしても視界に入った。
「さ、船の時間だ。行こうユフーラ。あまり長くは居られないが、俺も送っていくから。」
「…ハクナをここに置いて?」
「大丈夫、いつも傍に居ると思うよ。」
「どうかな。あいつ、死ぬとき……やっぱり何でもない。」
ユフーラはよろよろと立ち上がって、シマの居る方へ歩き出した。
「お。ユフーラ。もういいのか。」
「うん。もう行く。船、出ちゃうんだろ?」
「ああ。じゃあ急ぐぞ。」
アクターは城下町の門番へ話を通し、そこでそのまま別れることになった。
「兄さんは俺に会いに来てくれたんだよな。今度は俺がユフーラに会いに行くよ。」
「そうだな。見つかりにくいようにしておく。」
アクターが笑うと、ユフーラも少しだけ笑うことが出来た。それを見てシマもようやく安堵の笑みを見せた。
船着場に着く頃には、夜がとっくに訪れていた。
シマとハンジと使用人は、ユフーラが船に乗り込むのを静かに見守った。
ユフーラは小さな鞄を抱えて、まだ完治しない傷を庇いながらゆっくり船に乗り込んだ。
本当に到着はギリギリだったようで、程なく船の出発合図が鳴り響いた。
ユフーラは船の縁から言葉を交わすでもなく、ただ三人を見下ろしていた。
船が港から離れ始めた瞬間、シマとハンジは使用人の背中を押した。
「「今だ。」」
「おう。」
使用人は杖を捨て、思い切り走って船へ飛び乗った。
ユフーラは驚いて赤紫の髪の男を見ていたが、すぐに納得した。
船への乗り込みが完了すると、使用人は陸を振り返った。
「ありがとうハンジ! シマは覚えてろ!」
「なにぃっ!」
ようやく言葉を発した使用人に、ユフーラは確信を持って飛びついた。
「ハクナあああっ」
「シーッ!!ここでバレたら偽装も変装も全部パアだぞ、静かにね、いい子だから!
…よしよしこんなに涙の後を作っちゃって。可愛い奴めーっ!」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でていたが、その内嗚咽が混じり始めた少年を見て手が止まった。
「…。」
「ごめんな、色々。心配かけて。」
「…。」
「…ユフ君?」
「…アホ。ドジ。 覚えてろよ。」
ハクナは苦笑しながら陸を振り返った。ハンジとシマは、船を指差して相変わらず口喧嘩をしていた。それを見ていたら、少し笑いがこみ上げてきた。
「ユフ君。お腹空いてないかい。みかんを持ってるんだけど。食べる?」
「食べる。」
戦争は二人のグレン=ワーノックの死でようやく幕を閉じた。
ハンジは戦乱に乗じて瀕死のハクナを運び出し、体力の続く限り回復魔法を浴びせ続けた。
シマは、ユフーラの保護でその場には居られず、ハクナのことは死んだとばかり思っていた。
とにかく大陸内の人間にハクナが生きていることを知られるわけにはいかないと判断したハンジは、まず一番目立つ髪を染め、服を平服に着替えさせた。
回復魔法の影響でだいぶハクナは痛い目を見たが、何とか生き返ることが出来たのだった。
双方それぞれのグレン=ワーノックを失ったアストリア王国とデルタ=バル王国は、貴族・商人の獲得にしばらく躍起になることだろうという事だった。ハンジはそのくだらない諍いに巻き込まれる前に、双子の兄弟を逃がすことを計画した。
「明日には、アクターも大陸から逃げ遂せていると思うよ。今夜あいつは暗殺事件に巻き込まれる予定だそうだ。」
「大丈夫なのか?」
「暗殺者役がハンジだから大丈夫さ。 …シマじゃ危ないけどな。」
どうにもシマが話題に上ると苛立つ主人にユフーラは理解が出来なかった。
「…シマと喧嘩でもしたのか?」
「いや。 ただ俺の名前が女の子用だったと知らされただけさ…。」
「それ本当か??…確かに中性的な名前ではあるけど。」
「そういう問題じゃないっ くっそーあのアホ親父…!」
「…。じゃあ本当に死んだのはハルシオンなんだな…」
「ああ。7年もよく頑張ってくれたよ。…これからはメスの無い旅だぜ…。」
「女の子の名前のくせによく言うよ」
「ちょ、酷いよユフ君!次の大陸着いたら新しい偽名でも作るかなぁ…。」
「もういいんじゃないの、ハクナで。」
夜の海は漆黒と言えるもので、彼らは船室に移動してくつろいでいた。
船室はランプの明かりがゆらゆらと湾曲させて見せていた。あちこちで船特有のギィギィという音が聞こえ、海がざわざわと喋っている。甲板を歩く人間の足音が何分か置きに聞こえた。
自分達の荷物の入った樽に座り、ハクナがしきりに眼帯を弄っているのを見て、ユフーラは3個目のみかんを頬張りながら聞いた。
「そんなに邪魔なら取ればいいだろ、それ。」
「んー。それが取れないんだよ。実は、右目を失明しちゃってさ。」
「へぇ…。 …え!?」
「あ、失明っていうのは」
「ばか、意味は知ってるよ、どういう事だって言ってるんだ」
「なんかね、怪我をした時出血が酷くて、全部回復する前に目がやられちゃったーみたいなことを報告されたな。医者に見せたら俺が生きてるのばれちゃうし。…尤もあの怪我じゃ魔法で治すのが一番いいから、医者に見せても結果は変わらなかったと思うよ。」
「生きてるだけ儲けってことか。」
「まぁそんなところじゃないかな。」
「あとは少し記憶障害が出ているようだ。」
「記憶障害?」
「なんだか、思い出せるものと思い出せないものがあってね…。これからそれが進行するかもしれないとか、ハンジは言ってたけど。」
そこまで話すとハクナはハンモックに寝そべった。
「さ、話したいことはまた明日話そう。明日も俺達は生き続けるんだからね。」
ハクナはランプの灯りを消した。一層波の音が活気付いたように感じる。
「うん。…そうだな。」
「明後日はもう向こうの大陸だ。今度はリットを探しに行こう。俺達にはもう家族が居る。」
「そうだね。 …あ、ハクナ…」
「ん?」
「死ぬ前に、誰を呼んだ?」
…
「…俺の天使は黒い羽根を持ってるって事だな。」
「あっそ。」
船は月を背にゆったりと前進していった。
終