管理人日記。
Omie Wise / Greg Graffin
* * *
今日は一日中眠かった。
いや、寝てた。あらゆる所で。あらゆる時間を。(真顔
最近疲れているとは言いつつも、
数日前に比べればまだ良い方だとは思う。(頷
少し色んな事に関わるのが面倒だけど、なんとかいけそうです。(しみじみ
ハクナ日記。
「作戦通りに。」
その声は低く小さく響いた。ハクナは弓を番えたまま頷いた。
間もなく彼らの耳に馬の蹄の音が入ってきた。広い山道を通りかかった荷馬車が彼らの存在に気付かずに目の前を通り過ぎようとする。
ハクナはギリギリと弓を引くと御車台の男の方へ弓を向け、矢を放った。
空気を切る音が走り、次の瞬間馬車はずるずると山道をはずれ、木々の方へと走っていった。
「今だ!」
ハクナの傍らに居た男が合図を叫び、一斉にその部下が荷馬車へ向かって走り出した。
「ありがとう、約束の報酬だ。」
ハクナは『報酬』の皮袋を受け取り、中身を確認して、笑顔で返事をした。
「いえいえ。怪我人も出ませんで、良かったですね。」
「また何かあったら頼むよ。」
「無い方がいいですけどね。その時は、また。」
荷馬車に乗っていた見知らぬ貴族は逮捕され、来た道を男達に連行されて行った。後姿を見守ってから、座れそうな場所を探して腰を下ろした。荷馬車の残骸を見ながらユフーラが上空から降りてくる。
「おつかれー。成功したみたいだな。てっきり失敗して殺しちまうかと思ったよ。」
「失敬な。あんなにゆっくり走ってる荷馬車の手綱ぐらい狙えるよ。」
笑いを含んだ声から、報酬が弾んでいた事がうかがえた。
「今日は美味い飯でも食おうかね。」
主人の機嫌の良い声にユフーラは嬉しそうに囀って空で旋回した。ハクナは子供じみた反応に情けなさと嬉しさが混ざったような顔をした。
街の傭兵ギルドへ戻り、仕事が終わった事を報告した。
「次の依頼、受けますか。」
「え。来てるんですか。俺に?」
「はい。」
個人で動いている傭兵には、それなりの仕事しか来ないと高をくくり、次の依頼の詳細書類を受け取ると、一つ頷いて書類を返す。
「いいですよ。依頼主はどこに居ますか。」
「夕方までは宿屋に居るようですよ。」
「ありがとう。」
ハクナは一つ笑顔を送ると、さっさとギルドを後にした。
ハクナの職業は現在傭兵になっていた。騎士である自覚はあるにはあったが、仕える人間が居ないのでは騎士として成り立たないのだった。
「また仕事かい。」
ギルドから出てくるのを待っていたユフーラがハクナの肩へ止まった。
「ああ。俺を指名してきたぞ。」
「怪しくないか。」
「大丈夫。ヘルメス国家の紋章は入ってなかった。」
「お前…。」
ハクナは9月にヘルメスの剣王に嫌な仕事を掴まされたばかりだった…。
「まぁ、警戒したくなる気持ちも判らなくはないけど、ギルドには来ないだろ。」
「判ってはいるんだけど。」
奴ならそんなまどろっこしい手は使ってこない、と脳内で主人とペットは呟いた。
宿屋で依頼主の名前を店主に尋ねて階下の酒場で待つように言われ、その通りにした。
「ありがとう、ハクナさん、依頼受けてくれたんですね。」
「あれ。あなたは。」
ハクナは数日前に助けた人物と遭遇した。その時は商人の格好をしていなかったので、依頼を受けたときにその人と判らなかったが。
「いつから商人になられたんですか、サー。」
若々しい商人は、はにかんだ笑顔を浮かべながらハクナの座る席の正面に座った。
「ははは、俺は職業柄、職業が変わるんですよ。」
とどのつまり、彼はとある国の間諜だった。
彼の本業は騎士だが、時には商人、召使、農民にさえ扮してしまう。
「今回の名前は『キース』でしたっけ。」
ハクナが面白がるような顔で身を乗り出したのを見て、またはにかんだ笑みを浮かべた。
「じゃあ、今回の依頼の内容を伝えましょうかね。」
キースと名乗った男は、羊皮紙を出すわけでもなくすらすらと内容を述べた。間諜をしていると、文章に残すべき時を選ばなくてはならないらしい。
しばらくして、頼んだわけでもなく昼食が出てきた。ハクナが片眉を上げて見せるとキースも片眉を上げてみせる。
「わざわざ昼飯時に来たのは、奢ってもらうためなんでしょ?」
図星を突かれてユフーラは大笑いし、つられて二人も店に響くほど笑った。
テントに戻ると、ハクナは身支度を整えた。
「明日の朝に行くから、そのつもりで。」
と言って荷物を片付けるも、傭兵のプロ意識からかテントの中に物を散らかしたりしておらず、数分で準備が出来てしまった。
テントの中で適当に横たわりながら、眠気が来るまで会話をした。基本的にこのエディン人と鳥はお喋りが好きなのだった。
「表向きには商人の護衛だっけか。」
「だけど、俺を選んだって事は、血なまぐさい仕事なんだろうなぁ。」
「得意だろそういうの。」
「好きか嫌いかってことさ。」
笑いながら答えたハクナの声には『慣れ』が含まれていた。
「しかしまぁ、一人でよくもまぁあんなところに調査に出かけるよな。」
「二人だろ。巻き添え、巻き添え。」
ユフーラが的確に言い当てて、ハクナは苦笑した。
「お仕事、お仕事。」
やんわりと訂正しながら、夜は更けていった。